株式会社日本香堂と東京大学が
「香り」の記憶に対する作用を研究

アロマシフトは集中したい時に適したアロマミストです

~レモン・サンダルウッドの香りは、記憶課題の解決や記憶保持を促す作用も~
日本香堂では「香りの可能性」を広げるべく香りの研究を進めており、2020年から国立大学法人 東京大学様と精油の香りが記憶機能に及ぼす効果やその脳内メカニズムの解明をテーマに脳科学のアプローチから共同研究を行ってまいりました。
実験は、東京大学工学系研究科の上田特任講師の協力のもと、日本香堂の研究員、調香師も参加し、レモン、サンダルウッド(白檀)、楠(カンファー)の精油の香りの吸引が、ワーキングメモリーという記憶機能に及ぼす効果について脳波計測手法を使って調べました。
アロマシフトは集中したい時に適したアロマミストです
実証結果のまとめ
レモンの香りは、記憶課題の成績が有意に向上し、正答率が上がる結果に。サンダルウッドは、ゆるやかな活性化で、記憶保持に向く作用が判明。 レモンの香りは、記憶課題の成績が有意に向上し、正答率が上がる結果に。サンダルウッドは、ゆるやかな活性化で、記憶保持に向く作用が判明。

実験方法

実験参加者は、以下のような手順(1~4)で、レモン、白檀、楠、香りなしを吸引してもらって、2バック課題に取り組んでいただき、脳波計を用いて、脳波を記録し、精油の香り吸引時の脳活動の30秒ごとの変化を調べました。

  1. 安静状態:参加者は目を開けた状態で60秒間リラックスする。脳活 動分析のベースラインになります。
  2. 精油吸引前の2バック課題:2バック課題を2分間(60試行)行う。
  3. 精油吸引:精油を2分間吸引する(鼻から4秒間深く吸引し、4秒間吐き出すのを15回繰り返す)。
  4. 精油吸引後の2バック課題:2バック課題を2分間(60試行)行う。
2バック課題
脳科学研究でよく用いられるワーキングメモリーを必要とする実験課題。2バック課題は、実験参加者の前に設置された液晶モニタに、1秒毎に1文字ずつ文字が表示されます。表示された文字が2回前に表示された文字と同じ場合は、マウスの左ボタンをクリックします。それ以外の場合は、右ボタンをクリックします。

2バック課題の図

実験結果

印象

まず、精油の香りに対する参加者の主観的な好ましさを7段階(0点:好ましくない~6点:好ましい)で評価してもらいました(図2)。

レモンや楠の精油の香りに対する主観的な好ましさは、他と比べて高い傾向にありました。

図2 精油の香りの好ましさの主観評価
(24名の平均)

精油の香りの好ましさの主観評価

2バック課題問題

精油の香り吸引前後に行ったテストの成績を比較すると、レモンの精油の吸引後に課題の成績が統計的に有意に向上していることが分かりました。(図3)

図3 精油の香り吸引前後の2バック課題の成績
(24名の平均)

精油の香り吸引前後の2バック課題の成績

脳波

主観的な好ましさやワーキングメモリー機能へのよい影響があったレモン精油吸引時の脳活動を見てみると、レモンの精油吸引直後から、デルタ帯域やシータ帯域において、帯状回(感情処理に関与する脳領域)を含む前頭前野、海馬傍回(海馬に近い領域。記憶処理に関与する脳領域)の活性化が認められました(図4)。またこれらの活性化は吸引開始後60秒まで持続しています。

これは、レモン精油の吸入がワーキングメモリー機能を高める可能性があることを示唆しています。

サンダルウッド精油の吸入直後、帯状回を含む前頭前部領域の活性化は、ベータ帯域、ガンマ帯域において観察され、それぞれ120秒後、90秒後まで持続しました(図5)。

サンダルウッド精油の吸入時の前頭前野のベータおよびガンマ帯域活性の活性化は、記憶保持に寄与する可能性があることを示唆しています。

精油の香り吸引前後の2バック課題の成績
総括
ワーキングメモリーには多くの脳領域が関与していることが知られていますが、前頭葉や海馬傍回におけるデルタ帯域、シータ帯域の脳活動が増加することが報告されています。
ワーキングメモリー機能を使うテストを行っている際には、これらの脳領域において局所的に血流量が増加します。精油吸引前の2バック課題終了後も血流が持続しているとすれば、レモン精油吸引により血中に取り込まれた匂い分子は血流量の増加に伴いワーキングメモリー関連部位に輸送され、神経活動を高めることが考えられます。
この実験結果から、精油を吸引することで、匂い分子が直前に使っていた機能に関連する脳部位に能動的に輸送され、その結果、選択的な脳の活性化が起こり、その機能を向上させるという脳内メカニズムが起こっていると考えています。

共同研究者コメント

例えば、特定の香りにふれることで過去の記憶を鮮明に思い出したり、その時の強い感情がよみがえったりするプルースト効果は,香りと記憶,感情の密接な結びつきを示す興味深い現象です。

鼻から吸った匂い分子が鼻の嗅覚受容体を刺激し、脳の嗅覚神経を通じて嗅覚的な処理をすると同時に,大脳辺縁系の海馬,扁桃体,帯状回を刺激し,その香りに関わる過去の経験の記憶や感情を引き出すのかもしれません。

精油の香りが、人間の脳の機能、とりわけ記憶機能や感情機能に何らかの影響を与えている可能性があると言えそうです。

精油の香りが記憶機能に及ぼす効果やその脳内メカニズムを脳科学からアプローチした今回の実験では、レモンの香り・サンダルウッドの香りとワーキングメモリー機能に関わる脳内メカニズムが明らかになり、記憶課題の成績向上、記憶保持に向く作用が期待できることが判明しました。

精油の香りが記憶機能に及ぼす効果

このことは、レモンやサンダルウッドの香りをうまく活用することで、勉強はもちろん、ビジネス、スポーツ競技など幅広い場面でのパフォーマンス向上が期待できるということを示唆しています。

今回の共同研究を通して、未知の部分の多い香りについて、その一部を解明できたことを大変うれしく思います。

今後、香りと脳科学の関係についての研究が一層進むことで、香りが他の機能(例えば、集中力、言語能力、創造性など)に及ぼす効果などが少しずつ解明され、香りを上手に使うことで人々の生活が豊かなものになることを期待いたします。

香りと脳科学の関係についての研究

共同研究者のご紹介

東京大学大学院工学系研究科・特任研究員 上田一貴
東京大学大学院工学系研究科・特任研究員 
上田一貴
2004年広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程後期修了。2007年東京大学先端科学技術研究センター特任助教、2012年東京大学大学院工学系研究科機械工学専攻特任講師を経て、2023年より現職。株式会社センタン研究員も務める。専門は認知神経科学。脳機能イメージング研究に従事。博士(学術)。
日本香堂・調香師 堀田龍志
日本香堂・調香師 堀田龍志1975年大手香料メーカーに入社。1981-82年パフューマーとしてフランス、ドイツなどで研修、1994年海外大手香料メーカーの日本支社に移る。1998年資生堂研究所香料研究室入社。主任調香師(チーフパフューマー)として香り開発に従事、2017年4月日本香堂入社、各種製品用の香料開発を担当。フランス調香師協会 正会員、公益社団法人 日本アロマ環境協会 顧問、日本調香技術普及協会 名誉理事を務める。
日本香堂・研究員 鈴木武史
日本香堂・研究員 鈴木武史1995年日本香堂に入社以来、研究室で日本香堂製品の調香、原料管理、安全性などの研究開発を行う。特に香原料である香木について造詣が深く、特性を熟知。職人的な要素の強い薫香の業界において化学的なアプローチで活躍中。日本香堂研究室室長。

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